2017.05.14

memento mori




火で燃やした先に在るものは、
虚空に消えゆく無のみだ。


人の身体も、紙も。


生々しく血が流れる無数の細胞と業で覆われているこの姿も、
木々の白く薄い幾つもの重なり合う繊維も、

全ては灰になり、
粉々になり、
形を失い、
風にとけてゆく。


和紙の滑らかで人の肌のような温もりと、
指に残る灰の細やかな残骸。
そして感じる火の残り香。

燃えゆく火によって生まれた、
様々な色をした燃え跡と数々の穴。


火によって無くなる直前の、
この世界から姿を失う瞬間に、
まるでそれこそが真実の魂の姿だったと言わんばかりに、

美しく咲き乱れる小さな模様が
芸術家の手によって現れる。

火を操る魔術師の唄う祝詞の軌跡のように、
和紙には記憶から消えゆくことを怖れた
過去の残影が浮かび上がる。


そこには死にゆく儚さを持った美しさと、
生まれゆく強烈さを持った神々しさとが共存していて、

全世界が気がつけないほどに
生を纏い微かに振動しているようなのだ。

まるで炎の唄のようなその声に、
魂の奥深くが揺れ、
相変わらず理由もなく涙が溢れる。


たった一枚の燃えゆく穴の姿に、
わたしはなぜこんなにも揺さぶられているのか
分からない。

生きることも死ぬことも分かっているようで
何も分かっていないように。


人は生きることを実感する中で死を想い、
死に直面せざるを得なくて生を想う。


ただそこに在るもの。

生まれて怖れるもの。
失い気づくもの。


そのどちらも、強烈に美しい。
















ふと、1月の個展の日を想い出していたら
不思議な縁で今日一冊のbookが届いた。

そこにはdrawingも。

そしてまた文を綴りたくなり言葉を紡いだ。

美しくて
どこまでも美しくて。



ありがとう






specimen / 市川孝典 2012





















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